歌奏テクニック集

DAWにおけるオーディオトラックとMIDIトラック それぞれの役割と基本的な使い方

Tags: DAW, オーディオトラック, MIDIトラック, 録音, 打ち込み

はじめに

「歌ってみた」や「演奏してみた」を始める際に多くの方が使用するのがDAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれる音楽制作ソフトウェアです。DAWを使うと、歌声や楽器の音を録音したり、パソコンの中で様々な楽器の音を鳴らしたり、それらの音を組み合わせて一つの楽曲として完成させたりすることができます。

DAWの画面を開くと、たくさんの「トラック」が縦や横に並んでいるのが目に留まるでしょう。このトラックは、音を扱うための「通り道」や「箱」のようなものです。そして、DAWにはいくつかの種類のトラックがありますが、特に重要で基本的なものが「オーディオトラック」と「MIDIトラック」です。

これらのトラックは、それぞれ異なる種類の音の情報を扱うために存在しており、それぞれの特性を理解することがDAWを使った制作の第一歩となります。この記事では、オーディオトラックとMIDIトラックがどのようなもので、それぞれどのような役割を持ち、どのように使うのかについて、初心者の方にも分かりやすいように解説します。

オーディオトラックとは

オーディオトラックは、その名の通り「オーディオデータ」を扱うためのトラックです。オーディオデータとは、マイクで録音した歌声や楽器の音、CDやストリーミングサービスで聴くことができる音楽ファイル(WAVやMP3など)といった、「音そのもの」の波形データのことです。

オーディオトラックの役割

オーディオトラックの主な役割は、マイクや楽器から入力された音を録音したり、パソコンに保存されているオーディオファイルを読み込んだりして、DAW上で音を再生・編集できるようにすることです。

オーディオトラックで扱うデータ

オーディオトラックが扱うのは、時間の経過と共に変化する音の振動をデジタルデータとして記録したものです。DAWの画面上では、このデータが波形として表示されることが一般的です。波形の形を見ることで、音の大きさや、音が鳴っている時間などを視覚的に把握することができます。

オーディオトラックの基本的な使い方

  1. 録音: マイクや楽器をオーディオインターフェース経由でパソコンに接続し、DAWのオーディオトラックを選択して録音を開始すると、そのトラックに音の波形データが記録されます。
  2. ファイルの読み込み: 録音済みの音声ファイルや、ダウンロードした効果音などをオーディオトラックにドラッグ&ドロップなどで配置することで、DAW上で再生・編集できるようになります。
  3. 編集: 録音した音や読み込んだ音の不要な部分をカットしたり、複数の音を繋げたり、音量を調整したり、リバーブやディレイといったエフェクトをかけて音の響きを変えたりといった編集を行います。

オーディオトラックで扱われるデータは音そのものであるため、一度録音したりファイルとして読み込んだりした音の「音程」や「音色」を後から自由に変えることは基本的に難しいという特徴があります。(特別な技術を使えばある程度の編集は可能ですが、オリジナルの音質が変化することがあります。)

MIDIトラックとは

MIDIトラックは「MIDIデータ」を扱うためのトラックです。MIDI(Musical Instrument Digital Interface)は、電子楽器やコンピューターの間で演奏情報をやり取りするための共通規格です。MIDIデータそのものには「音」は含まれていません。含まれているのは、「どのタイミングで」「どの高さの音を」「どれくらいの強さで」演奏したか、といった「演奏指示」の情報です。

MIDIトラックの役割

MIDIトラックの主な役割は、鍵盤やパッドなどのMIDIコントローラーで演奏した情報や、マウスで打ち込んだ演奏情報を記録することです。そして、記録したMIDIデータを元に、別の場所にある「音源」を鳴らすように指示を出すことです。

MIDIトラックで扱うデータ

MIDIトラックが扱うのは、楽譜のような、あるいはピアノロール画面のような形で表示されることが多い演奏情報です。音の高さ(どの鍵盤を押したか)、音の長さ(どれくらい押していたか)、音の強さ(どれくらいの速さで押したか)といった情報が記録されています。

MIDIトラックの基本的な使い方

  1. 打ち込み: DAWのMIDIトラックに、マウスなどを使って音符(ノート)を入力し、演奏情報を手動で作成します。
  2. 演奏情報の記録: MIDIキーボードなどのコントローラーを接続し、DAWのMIDIトラックを選択して演奏すると、弾いた内容がMIDIデータとして記録されます。
  3. 音源の選択: MIDIトラックに記録された演奏情報は、そのままでは音が鳴りません。音を鳴らすためには、DAWに内蔵されている、あるいは別途インストールした「ソフトシンセ」などの音源(ソフトウェアの楽器)をこのトラックに読み込む必要があります。MIDIトラックの演奏情報が、この音源に対して「この音を鳴らして」と指示を出し、そこで初めて音が鳴ります。

MIDIトラックで扱われるのは演奏情報であるため、記録した後に音源ソフトを別のものに変えれば、同じ演奏情報でも全く異なる音色で鳴らすことができます。また、打ち込んだり記録したりした音符のタイミングや音程、長さを簡単に編集できるという非常に自由度の高い特徴があります。

オーディオトラックとMIDIトラックの主な違い

この二つのトラックの最も大きな違いは、扱っているデータの種類です。

この違いにより、それぞれ得意なことと苦手なことがあります。

どのように使い分けるか、あるいは組み合わせて使うか

「歌ってみた」であれば、自分の歌声はマイクを使ってオーディオトラックに録音します。一方、伴奏のピアノやストリングス、ドラムなどをパソコン上で鳴らす場合は、MIDIトラックを使って演奏情報を打ち込んだり演奏したりし、そこにソフトシンセなどの音源を読み込んで音を鳴らします。

「演奏してみた」の場合も同様に、ギターやベースなどの生楽器を録音する際はオーディオトラックを使います。打ち込みのドラムやキーボードの音はMIDIトラックで作成します。

このように、オーディオトラックとMIDIトラックは、どちらか一方を使うというよりも、目的に応じて使い分けたり、組み合わせて使うことがほとんどです。歌声と伴奏を組み合わせることで、オリジナルの「歌ってみた」や「演奏してみた」作品を作り上げていくのです。

まとめ

DAWにおけるオーディオトラックとMIDIトラックは、それぞれ「音そのもの」と「演奏情報」という異なるデータを扱います。

これらの基本的な違いと使い方を理解することで、DAWを使った音楽制作の可能性が大きく広がります。まずは、録音したい音はオーディオトラック、パソコンの中で鳴らしたい楽器の音はMIDIトラック、と分けて考えてみてください。実際にDAWを触ってみて、それぞれのトラックに音を入れてみたり、簡単な編集を試してみたりすることで、より理解が深まるでしょう。

この知識を元に、あなたの「歌ってみた」や「演奏してみた」の活動にぜひ役立ててください。