歌奏テクニック集

DAWで複数の音源(トラック)を配置・調整する基本的な手順

Tags: DAW, 多重録音, ミックス, オーディオ, 音量調整

複数の音源を扱う必要性

「歌ってみた」や「演奏してみた」の作品を制作する際、歌声や楽器の演奏、そしてカラオケ音源(伴奏)など、複数の異なる音源を組み合わせて一つの完成形にすることが一般的です。例えば、自分で歌声を録音し、市販のカラオケ音源と合わせる場合、少なくとも二つの音源を同時に扱うことになります。また、自分でギターやベース、ドラムなどを個別に録音する場合、さらに多くの音源が必要になります。

これらの複数の音源を一つにまとめる作業は、DAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれる音楽制作ソフトウェアで行います。DAW上でそれぞれの音源を「トラック」として管理し、配置や音量などを調整することで、全体のバランスが取れた作品を作り上げます。

DAWにおける「トラック」とは

DAWを開くと、時間軸に沿って複数の横長の列が表示されているのを目にするでしょう。この一つ一つが「トラック」です。トラックは、特定の種類の音源(例えば、歌声、ギター、ドラムなど)を配置するための場所だと考えてください。

例えるなら、学校の合唱発表会で、ソプラノパートはA列、アルトパートはB列、伴奏のピアノは舞台中央、といったように、役割ごとに立ち位置や担当を決めるようなものです。DAWのトラックも同様に、それぞれの音源に専用の場所を与え、そこで個別に編集や調整を行うことができます。

DAWに音源を読み込む

複数の音源を扱う最初のステップは、それらをDAWに読み込むことです。録音した自身の声や演奏のデータ、ダウンロードしたカラオケ音源などは、通常WAVやMP3といったオーディオファイルとして保存されています。

多くのDAWでは、これらのオーディオファイルをDAWの画面上、特にトラックが表示されているエリアにドラッグ&ドロップすることで簡単に読み込むことができます。新しいトラックが自動的に作成され、そこにファイルが配置される場合や、既存の空きトラックに配置する場合など、DAWによって挙動は異なりますが、基本的な操作は共通しています。

もしドラッグ&ドロップができない場合は、DAWのメニューにある「ファイル」や「読み込み(インポート)」といった項目からオーディオファイルを選択して読み込む機能を探してみてください。

複数トラックへの音源配置

音源をDAWに読み込んだら、それぞれの音源を適切なトラックに配置します。歌声は歌声用のトラック、伴奏は伴奏用のトラック、といったように、管理しやすいように分けて配置するのが一般的です。

また、複数のパートを別々に録音した場合(例えば、ギターのパートを複数回に分けて録音した、ドラムのキックとスネアを別々に録音したなど)も、それぞれを独立したトラックに配置することで、後からの調整が容易になります。

音源ファイルをトラック上の目的の位置(曲の始まりなど)に移動させるには、ファイルをドラッグして目的の場所にドロップします。歌声と伴奏など、複数の音源の開始タイミングを合わせる場合は、それぞれのファイルの開始位置を時間軸上で揃えるように配置します。

基本的な調整:音量(ボリューム)

複数の音源を配置したら、次にそれぞれの音源の音量バランスを調整します。これが「ミックス」と呼ばれる作業の最も基本的な部分です。伴奏に対して歌声が小さすぎたり大きすぎたりしないように、それぞれの音源の音量を適切なレベルに合わせます。

DAWの各トラックには、「フェーダー」と呼ばれる音量調整用のスライダー(縦棒状のつまみ)がついています。このフェーダーを上下に動かすことで、そのトラックの音量を大きくしたり小さくしたりできます。

バランス調整は、すべての音源を同時に再生しながら、それぞれのフェーダーを少しずつ動かして耳で確認しながら行います。全体の音が大きすぎて音割れしないように注意しながら、歌声が伴奏に埋もれず、かつ伴奏がうるさすぎないようなバランスを目指します。

基本的な調整:パン(定位)

音量調整と並行して、またはその次に、各音源の「パン」を調整することがあります。「パン(Pan)」とは、その音がステレオ音声の左右のどの位置から聴こえるようにするかを設定する機能です。「定位(ていいき)」と呼ばれることもあります。

例えば、歌声は中央から聴こえるように設定し、ギターやピアノなどの楽器は左右に少し広げて配置することで、音の空間的な広がりを表現することができます。

DAWの各トラックには、音量フェーダーの近くに「パンノブ」または「パンポット」と呼ばれる左右に回すつまみがついています。これを左に回すと音が左寄りになり、右に回すと右寄りになります。中央に設定すると、音は中央から聴こえます。

歌声は通常、中央(センター)に配置されます。伴奏の楽器などは、必要に応じて左右に配置することで、全体の音が団子状になるのを防ぎ、聴きやすくする効果があります。

調整結果の確認と書き出し

音量やパンなどの基本的な調整が完了したら、必ず最初から最後まで通して再生し、全体のバランスを確認してください。必要であれば、再度調整を繰り返します。

調整が終わり、作品として完成させたい場合は、DAWの機能を使って一つのオーディオファイル(WAVやMP3など)として書き出し(エクスポート)を行います。この書き出しによって、DAW上で別々のトラックとして扱っていた複数の音源が、音量やパンの調整が反映された状態で一つのファイルにまとめられます。

まとめ

DAWで複数の音源(トラック)を扱うことは、「歌ってみた」や「演奏してみた」の作品を形にする上で非常に重要なステップです。この記事でご紹介した「トラックへの音源読み込みと配置」「音量(ボリューム)調整」「パン(定位)調整」は、複数音源を扱う上でのごく基本的な操作ですが、これらを理解し実践することで、作品の聴こえ方は大きく変わります。

最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、繰り返し操作をすることで感覚を掴むことができます。まずは歌声と伴奏の二つのトラックから始めて、少しずつ多重録音や楽器のパートを増やしていくと良いでしょう。