歌や演奏のミックス・録音で使うヘッドホンの選び方と基本的な使い方
歌や演奏のクオリティを高めるためのヘッドホンの役割
「歌ってみた」や「演奏してみた」の制作において、機材選びは重要な要素の一つです。これまでの記事では、DAW、オーディオインターフェース、マイクといった基本的な機材について解説してきましたが、楽曲のクオリティに大きく影響するもう一つの重要な機材として「ヘッドホン」があります。
ヘッドホンは、録音中の自分の声や演奏をモニタリングするため、また、録音後の音源のバランスを調整する「ミックス」作業を行うために使用されます。適切なヘッドホンを使用することで、音源に含まれる細かなニュアンスや問題点を正確に把握できるようになり、結果としてより良いクオリティの楽曲制作に繋がります。
このコラムでは、自宅での音楽制作に適したヘッドホンの種類、選び方、そして基本的な使い方について解説します。
音楽制作用ヘッドホンの種類
音楽制作で主に使われるヘッドホンには、構造上、大きく分けて二つのタイプがあります。それぞれの特徴を理解し、用途に応じて使い分けることが重要です。
密閉型ヘッドホン
イヤーカップ(耳を覆う部分)が完全に閉じている構造のヘッドホンです。
- 特徴:
- 外部への音漏れが少ない
- 外部からの騒音を遮断しやすい
- 低域(低い音)が豊かに聴こえやすい傾向がある
- 用途:
- 録音時: 自分の声や演奏の音がマイクに回り込む「音漏れ」を防ぐのに適しています。特に歌の録音時には、マイクがヘッドホンからの音を拾ってしまうと、後で編集が難しくなるため、密閉型が推奨されます。
- 騒音のある環境での作業: 外部の音を遮断し、音源に集中したい場合に役立ちます。
開放型ヘッドホン
イヤーカップの背面に空気穴が開いている、またはメッシュ状になっている構造のヘッドホンです。
- 特徴:
- 音抜けが良く、自然で広がりのあるサウンド
- 長時間の使用でも耳が疲れにくい傾向がある
- 密閉型に比べて外部への音漏れが大きい
- 外部からの騒音も遮断しにくい
- 用途:
- ミックス・マスタリング時: 音の定位(音が左右どの位置にあるか)や奥行き感を正確に把握しやすいとされています。音源を客観的に評価するのに向いていますが、音漏れするため静かな環境での使用が前提となります。
初心者の場合、まずは録音用途でも役立つ密閉型ヘッドホンを一つ用意することから始めると良いでしょう。ミックス作業に慣れてきたら、開放型も検討する価値があります。
録音・ミックスに適したヘッドホンの選び方
音楽制作用のヘッドホンを選ぶ際には、いくつかのポイントがあります。
- 「モニターヘッドホン」を選ぶ: 一般的な音楽鑑賞用ヘッドホンは、特定の帯域(例えば低音)が強調されている場合があります。これは音楽を楽しく聴くためには良いのですが、音源を正確に判断する必要がある録音やミックス作業には不向きです。音楽制作用途で「モニターヘッドホン」と表記されている製品は、音源を「モニター(監視)」するために、原音に忠実な、なるべくフラットな周波数特性(音の高さごとの音量バランス)を持つように設計されています。
- 装着感: 長時間使用することが多いため、耳への負担が少なく、しっかりとフィットするものを選びましょう。眼鏡を使用している場合は、耳あて部分の素材や形状も確認すると良いでしょう。
- インピーダンス: ヘッドホンの抵抗値を示す数値です。一般的に、インピーダンスが高い(例: 250Ω)ヘッドホンは、スマートフォンや一部の安価なオーディオインターフェースでは十分な音量が得られない場合があります。自宅録音用のオーディオインターフェースと組み合わせて使う場合は、インピーダンスが比較的低い(例: 32Ω〜80Ω程度)モデルを選ぶと、問題なく使用できることが多いです。使用するオーディオインターフェースのヘッドホン出力の仕様を確認することも推奨されます。
ヘッドホンの基本的な使い方
適切なヘッドホンを用意したら、その使い方にも少し注意を払うことで、より効果的に活用できます。
- 正しく装着する: イヤーパッドが耳全体をしっかりと覆うように装着します。隙間があると、特に密閉型ヘッドホンの遮音性や低音の聞こえ方に影響が出ます。左右を間違えないように注意しましょう。
- 適切な音量で聴く: 音量が大きすぎると、耳への負担が大きいだけでなく、音源の細部が聞き取りにくくなる場合があります。また、録音時には音漏れの原因にもなります。耳が疲れない、小さすぎず大きすぎない適度な音量で使用することが重要です。基準としては、DAWのマスターメーターがピーク時に-6dB〜-10dB程度になるような音量でモニターすると良いでしょう。
- 耳を休ませる: 長時間連続してヘッドホンを使用すると、耳が疲れたり、一時的に聴力が低下したりすることがあります。これにより、音の判断が鈍り、ミックスなどの作業に悪影響を与える可能性があります。1時間作業したら10分程度の休憩を取るなど、意識的に耳を休ませる時間を設けることが推奨されます。
- 定期的なメンテナンス: イヤーパッドに汗や皮脂が付着すると、劣化の原因になります。使用後は柔らかい布で拭くなど、簡単な手入れを行うことで、ヘッドホンを長く良い状態で使用できます。
まとめ
「歌ってみた」「演奏してみた」のクオリティ向上には、音源を正確にモニタリングできるヘッドホンが不可欠です。特に自宅での制作環境では、密閉型モニターヘッドホンが最初の選択肢として推奨されます。選び方のポイントとしては、「モニターヘッドホン」であること、快適な装着感、そして使用する機材に合ったインピーダンスに注目することが挙げられます。
また、ヘッドホンを正しく装着し、適切な音量で使用し、定期的に耳を休ませることで、耳への負担を減らしつつ、音源に含まれる情報を正確に把握できるようになります。これらの基本的な知識と使い方を実践し、より質の高い作品制作を目指してください。